「図書館情報学の理論としての哲学について」

発表スライド

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自己紹介

氏名: 清宮亮太郎

所属: 情報学群 知識情報・図書館学類 2年

関心分野: 背後にある大きな構造・システムに関係する分野;

分析哲学(論理・言語), システム論(システム全般として), 図書館情報学(情報システム)

本発表の内容

内容

  • 図書館情報学(Library and Information Science; LIS)とは何か

  • 図書館情報学と哲学の関係について

  • (フロリディの情報の哲学(Philosophy of Information; PI)について)

    • ※PIの中でも特にLISに関わる部分だけを扱います

本発表の目標

  • 哲学徒に向けて:

    • 図書館情報学の概要を知ってもらう

    • 図書館情報学と哲学の関係を知る

    • (図書館情報学が哲学に役立つ気配を感じ取ってもらう)
  • 図書館情報学徒に向けて:

    • 図書館情報学とは何かの理解を深める

    • 理論的基盤としての哲学の概要を知る

目次

  • 序論: 予備知識の解説

    • 図書館情報学とは

    • 図書館情報学が抱える問題

  • 本論:

    • 図書館情報学と哲学の関係 (横山, 2014)

    • 図書館情報学の理論立てのための哲学の試みの例 (Floridi, 2002)

    • これからのLIS-Philのための考察

  • まとめ

  • 参考文献

序論: 図書館情報学とは

Q. 図書館情報学とは何か?

(右イラストはDALL-Eによる「図書館情報学」のイメージ画像) bg cover right

A. よくわからない

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序論: 図書館情報学とは

参考1: 教科書的記述

情報学は研究領野のひとつであり、[中略] 情報コミュニケーション連鎖を構成する各要素に焦点を当てて研究するものである。(Bawden & Robinson, 2024)

  • 情報学 = 図書館情報学?
  • 研究領野?
    • 何かしら関心あるトピックや主題に焦点を当てて研究するために、 [中略] 何であれ役立ちそうな領域の知識を用いるもの (同上)

  • コミュニケーション連鎖?
    • 情報の作成・流通・組織化・検索・利用・保存・廃棄 (同上)

序論: 図書館情報学とは

参考2: 知識情報学における全体像

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  • (石井, 2011)

序論: 図書館情報学とは

参考3: 個別分野

  • 社会認識論: 社会における知識のふるまいの研究
  • 情報行動論: 人の情報探索に関する諸現象の解明
  • 知識組織化論: 概念や知識資源をよりよく・便利に分類・整理
  • 計量書誌学: インパクトファクターなど、学術論文の引用関係などについての定量的研究
  • etc…

序論: 図書館情報学とは

要するに…

  • 広い意味での情報を対象として、
    それらの獲得・伝達・保存などのふるまい”全体”を研究する分野

  • 対象にまつわる他分野の知見も積極的に活用

  • 図書館サービスでの実践への応用も

序論: 図書館情報学の問題点!

理論がない!!

  • The overall situation in information science [/LIS] today is a chaos of theoretical contributions, each paying no or much too little interest in the existing ones [後略] (Hjørland, 2019)

  • 今日LISにおける理論研究の成果は、他の成果をほとんど考慮しておらず、混乱している
  • 哲学が関わりうる余地がありそう…

本論: 図書館情報学と哲学の関係

先行研究: 横山幹子. 「哲学と図書館情報学の関係: 図書館情報学における哲学に関する英語論文を基に」. Library and Information Science 71 (2014年): 75–97.

  • 以下横山論文と呼称

本論: 横山論文の内容

  • Library and Information Sciencec Abstracts (LISA)で図書館情報学と哲学に関する論文を検索
  • それら(全23本)を分類図書館情報学と哲学の関係を調査する

本論: 横山論文の結論

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  • 左表は、(横山, 2014)第2表 図書館情報学における哲学の現れ方より抜粋

分類結果:

  • 類型1,2がほとんど(17 / 23本)
  • 他の類型も類型1,2に関係

横山論文の結論

  • 図書館情報学研究における哲学の利用は,[中略]「存在論的,もしくは,認識論的にどのような立場をとることによって,図書館情報学研究をより実りあるものにできるかを示すため」になされている (横山, 2014)

    • ex) BrookesとPopper(Brookes, 1980), GnoliとHjørland(横山, 2020)
    • 「個別科学の基礎を与え,知識に到達する唯一の正しい方法を手に入れるため」という「基礎づけ主義」ではない
  • このような哲学の利用はLIS研究に対して有用
  • 哲学的立場の有効性の提示の仕方として、その立場でのLIS研究が有効であることを示すというのは、一つの方法として考えられる

本論: 図書館情報学の理論立てのための哲学の試みの例

文献: Floridi, L. (2002年). On defining library and information science as applied philosophy of information. Social Epistemology, 16(1), 37–49. https://doi.org/10.1080/02691720210132789

  • 「情報哲学(PI)の応用哲学として図書館情報学を定義することについて」
  • 以下、Floridi論文と呼称

本論: Floridi 論文の内容

  • LISの理論的基盤として情報の哲学

  • 主な主張:

    1. 社会認識論(Social Epistemology; SE)ではLISに満足な基盤を提供できない

    2. ある理論が基盤足り得るかを測るよい基準はその応用先の発展から学ぶことができるか否か

    3. PIはLISの基盤として上の基準を満足する

本論: SEではLISに満足な基盤を提供できない

  • 社会認識論(SE):

    • 図書館学者のシェラが創案
    • 個人の知識に焦点を当てる従来の知識論に対し、社会集団が知識をどのように所有するかに焦点を当てる
    • 「知識の社会学(SOK)」と「社会的知識の認識論(ESK)」としての側面があり、LISはESKと深く関わる
  • SEの問題点:

    • ESKは規定的(prescriptive)だが、LISは規範的(normative)である
    • ESKは主に概念的な知識を対象とし、その真理性を重要視するが、LISが扱う主たる知識は実体的であり、真理性を問題としないものが多い

本論: PIとは

  • (a) 情報やその科学、ダイナミズム、利用の基本原理と本質概念の批判的研究

    • 「情報とは何か」という問いに対する現象学的(phenomenological)側面――言語哲学のような
  • (b) 哲学的問題に対する、情報理論的・コンピュータ的方法論の適用と推敲

    • メタ理論的(metatheoretical)側面――論理・数学の哲学のような
  • LISにとって重要なのは(a)

本論: PIがLISの基盤たる理由

  • LISとPIはポストデカルト的(=非個人主義的)な枠組みを共有

  • PIと同様、LISは純粋にメタ理論的なわけではなく、百科全書的な対象範囲に対して現象学的な関心を向ける。とはいえ、LISはメタ理論的視点を持つ本質的な使命があり、その点でLIS-PIは相互にどちらか一方に還元されない

  • LISが扱う情報はPIのより具体的な文書のライフサイクルに関わるものである

  • LISと同様にPIは認識論的に規定的である

本論: これからのLIS-Philのための考察

  • LIS研究の概念的枠組み・態度の提示はメタ理論的観点が重視されていると思われる
    • その提示は、個別分野に偏ったもの、あるいは折衷主義がとられ統一的な理論を目指す観点からは不十分では
  • LISに対しての基礎づけ主義は時代遅れか?
    • 他の科学は数学的・形式的な基盤が存在していたが、LISは…
    • 「基礎づけ」ではなく、ある種の「穏健な基礎づけ」主義的な整合説
  • PIはLIS内からの批判は多いが、現象論的な試みという点では評価できるのでは
  • ※あくまでこれらの考察は実証的な横山論文の結論を直接否定するものではなく、むしろ横山論文の結果を認めたうえでの発展的考察として捉えられるべきものである。

まとめ

  • 図書館情報学と哲学は関係している

    • 哲学は図書館情報学に対して有用
    • 図書館情報学も哲学的立場の有効性を示す一方法として有用(あるいはLISとPIの関係)
    • FloridiのPIはLISと相互に影響しながら発展する余地があり、またLISの統一的な理論を作る観点からはLISの個別分野をまとめる「穏健な基礎づけ主義」的な試みとして評価できる

主要文献

- 横山幹子. (2014年). 哲学と図書館情報学の関係: 図書館情報学における哲学に関する英語論文を基に. Library and Information Science, 71, 75–97.

- Floridi L. (2002年). On defining library and information science as applied philosophy of information. Social Epistemology, 16(1), 37–49. https://doi.org/10.1080/02691720210132789

参考文献

  • Bawden, D., & Robinson, L. (2024). 図書館情報学概論第2版: 記録された情報の力 (塩崎亮, Trans.; 2nd ed.). 勁草書房.
  • 石井啓豊. (2011年). 図書館情報学の再規定による知識情報学の展望. 情報管理, 54(7), 387–399. https://doi.org/10.1241/johokanri.54.387
  • Hjørland, B. (2019, June 6). Encyclopedia of Knowledge Organization. Library and Information Science (LIS). https://www.isko.org/cyclo/lis
  • Brookes, B. C. (1980). The foundations of information science. Part I. Philosophical aspects. Journal of information science, 2(3-4), 125-133.
  • 横山幹子. (2020年). 図書館情報学における存在論の対立:Gnoliの存在論的複数主義とHjørlandの存在論的一元論の比較. Library and Information Science, 84, 1–21. https://doi.org/10.46895/lis.84.1